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[ URL:seilog.org ] Writtern by Seiji Nakamura

2020/9/14 (更新日:2022/2/13)

電気自動車の電磁波・ノイズで事故や健康被害を起さない為に、電磁波が発生する原理を理解してから対策を考えます

EV

電気自動車が出す電磁波は車や人体に影響はないのでしょうか?どのように対策すれば良いのでしょうか?

動作不良や健康障害にならない様に、電磁波の放出量を測定する国際的な評価基準が設けられています。
自動車会社は、車両評価基準に適合した部品で組み立てる様に義務付けられています。
ここでは、電磁波の中身を解説すると共に、電磁波を抑制する対策も説明します。
不安な方には電磁波量の測定装置を紹介いたします。

電気自動車やハイブリッド車の開発で、電磁波ノイズによる電気部品の誤動作に悩まされ対策を必死で検討した経験があります。

ここで説明する電磁波の発生原理を理解できれば、適切な対策案が考えられるようになります。
具体的な対策記事も参照ください。
1.電気自動車の電磁波・ノイズの車内での実際の対策【インバータのシールドなど】
2.電気自動車の電磁波ノイズが制御信号に及ぼす影響を抑える対策【コモンモードとノーマルモード】

電気自動車の電磁波・ノイズで事故や健康被害を起さない為に、電磁波が発生する原理を理解してから対策を考えます

by cocoparisienne pixabay

1.電気自動車の電磁波=ノイズの影響と安全を守る方法

(1)電磁波ノイズが車内で人体・電気部品に影響を及ぼす経路

電磁波とは大雑把に言うと、文字通り(電)場と(磁)場の(波)で成り立っているもので電気のある所に発生します。
家庭内でも存在していて、電場は電気を流していなくてもコンセントをさしてる電線からは常に発生し、磁場は電気を流している間は発生しています。
因みにコンセントを抜けば電線の電場もなくなります。

電気自動車内を考えます。大きな電磁波の発生源は大きな電流が流れる【電池‐インバータ‐モータ】になります。
影響を受けると考えられるのは、人体と電気機器です。

電磁波の障害は、
①電磁波ノイズ源、
②電磁波ノイズを受ける側、
③電磁波ノイズを伝える伝導、の3つの要素から成り立ちます。
ノイズが伝わる経路は空間、および電線のような導体、があります。

(2)電磁波ノイズの影響を遮断する対策

電磁波の障害を生じる3つの要素である
①電磁波ノイズ源、
②電磁波ノイズを受ける側、
③電磁波ノイズを伝える伝導、を無くせば当然電磁波の影響はなくせます。

一案は、①ノイズ源と②受ける側には、空間の伝導を無くすためにシールド(=電磁波を通さない金属の壁)を施すことです。
二案は、導体にフィルター(=ノイズによる信号の乱れを抑える回路等)の処理を施すことです。

(3)電磁波ノイズを測定する手段

電気自動車内での電磁波対策についてはこの後説明をしていきます。
実際に家庭内や車内で電磁波を測定したい読者に、個人用にも使える電磁波測定器の紹介を致します。

電気自動車内はノイズ対策がされているので、私個人的にはそこまで必要とは思いません。
どうしても実際の電磁波を測定しないと気が済まない人に磁界・電界を測定できる測定器を紹介します。
ネットでは色々な種類の測定器が出回っています。
今回はあくまでも、目的は車内に乗車しているときの電界・磁界・ラジオ波を測定することですので目的に合ったものを選ぶようにしてください。

簡易電磁波測定器として、電磁波測定器トリフィールドメーターというものが、電界、磁界、ラジオ波/マイクロ波の三種類を切替えて簡易に測定できます。
私は、佐藤商事のTRIFIELD METERを入手し十分でした。
他にもあるようですのでこれである必要はありません。
また、最近はレンタルでもこの種の測定器は借りる事ができるので、使い続けることがないのであれば、お試しでamazonなどのレンタルを利用することをお勧めします。
いずれにしても必要以上に心配するのは辞めにしましょう。

家庭内の電磁波に興味のある方は、下記の資料を参照すると情報が得られます。
参考:経済産業省-身の回りの電磁界

.電気自動車の電磁波・ノイズの基本

電気自動車内で影響の大きい空間伝導には3つの要素があり原理を説明します。

①電界で空間を伝導するのが、「静電誘導」と呼ばれる現象です。
②磁界で空間を伝導するのが、「電磁誘導」と呼ばれる現象です。
③「電波によるノイズの放射と受信」の現象もあります。
 これはラジオ放送と同じで、ノイズが空間を伝導されアンテナで受信する現象

 *但し、ここで扱っている電磁波は、光より周波数の低い電磁波になります。

それぞれの特性を理解して対策を理解しましょう。

一方、導体伝導はノイズが電線を伝わる現象で電気回路上で対策をしていくもので今回の説明からは外します。

3.電気自動車の電磁波の空間伝導の内容と対策

ここのパートは内容の概要に目を通して、この様な考え方があることを理解すれば良いです。
詳細を理解するには高校の物理が理解できるレベルの知識が必要です。

(1)静電誘導

電界が発生している空間で、2本の電線間に容量Cが存在する場合にノイズが空間を伝導するメカニズムです。

下図で説明します。

ノイズを送る側の電線【送り側n】と、ノイズを受ける側の電線【受け側2】の間に、【浮遊静電容量Cn2】が存在する。
⇒2つの電線間でノイズが伝導する電流経路が作られることになります。

すなわち、電線【送り側n】の電荷と平衡を保つように、電線【受け側2】の電荷が【Cn2】を介して供給されてしまいます。
その結果、【送り側n】の変化が【受け側2】に電流の変化として伝わりノイズとなります。

V2 = { Cn2 / ( C2 + Cn2 ) } × Vn

Vn ;ノイズ側電圧
V2 ;受け側電圧
Cn ;nと対地静電容量
C2 ;2と対地静電容量
Cn2 ;nと2間の相互静電容量

電界とは、正(+)の電位と負(―)の電位を持った電線間に電位が生じた時にその間に発生する現象です。

また、ノイズが伝導される時の状況を、物理的な表現と電気回路で表現するとこの様になります。

ここで表されている内容から、ノイズの影響が大きくなる要因と、その対策を整理します。

<影響が大きくなる要因>
誘導されるV2が大きくなる要因
<対策>
①ノイズ源電圧Vnが大きい程影響が大きい ・Vnを下げる(EMI除去フィルタetc)
・受信側の感度下げる(同上フィルタetc)
②浮遊静電容量Cn2(通常数pF)が 大きい程影響が大きい・並行配線部分を短くする
例えば直行に配線する。
③ノイズ源×被害者距離が近い程影響が大きい・二本の配線の距離を離す。
④ノイズ源、被害者のサイズが 大きい程影響が大きい
  (影響度合いが大きく出る)
・被害者のインピーダンスや感度を減す(EMI除去フィルタetc)
・静電シールド(金属板で電界を遮る)
⇒下記

「静電シールド」とは、GNDに接続した金属板をノイズ源と被害者の間に立て電界の影響を空間上で遮断することです。

原理は、
「ノイズ源から発生されるノイズをシールド板で受けてGNDへバイパスして放電することで受け側へのノイズの伝導を軽減している。」
という内容です。
「空間を電界が伝わるより、低インピーダンスの金属板の方がバイパス電流が流れ易いので、ノイズを遮蔽する効果がある。」
ということです。
その特性から、ノイズ源の電線を囲わなくても金属板を設定することで遮蔽の効果が得られます。

(2)電磁誘導

磁界が発生している空間で、2本の閉回路間に磁束の出し入れが存在する場合にノイズが空間を伝導するメカニズムです。
下図で説明します。

ノイズ源となる閉回路【送り側1】でノイズにより生じる磁束が変化します。
そのノイズにより受け側となる閉回路【受け側2】では、ノイズによる磁束の変化を抑えるように電圧が発生します。
磁界がノイズを伝えていることになります。

V2; 受け側電圧
V2 = – M × ΔIn / Δt = Δφ / Δt [V]

M  ;相互インダクタンス
In ;送電線の電流
φ  ;受け側回路の磁束

右ねじの法則で、電流が流れる方向に対して磁束は右ねじのように流れます。
また、ノイズが伝導される時の状況を、物理的な表現と電気回路で表現するとこの様になります。
そして、ノイズによる磁束の変化があると受け側の電圧の変化は、

V2 = -M×ΔIn/Δt = Δφ/Δt になります。

ここで表されている内容から、ノイズの影響が大きくなる要因と、その対策を整理します。

<影響が大きくなる要因>
誘導されるV2が大きくなる要因
<対策>
①ノイズ源電流Inが大きい程影響が大きい ・Inを下げる(EMI除去フィルタetc)
②相互インダクタンスMが大きい程影響が大きい・電流ループの面積減らす
・電流ループ同士は直行させる
③ノイズ源×被害者距離が近い程影響が大きい・距離を離す
④電流が並行している部分が多い程影響が大きい・並行する部分を減らす
⑤ノイズ源、被害者のサイズが大きい程影響が大きい・受け側にEMI除去フィルタ付ける
(バイパスコンデンサ,フェライトビーズetc)
・電磁シールド(金属板で磁界を閉じ込める)⇒下記

「シールド」とは、金属板をノイズ源と被害者の間に置いて、金属板を貫通する磁束を遮断することです。
磁束を遮断する効果は主に金属板に流れる渦電流によるものです。
必ずしも磁性体ではなくても通常の磁界は遮断できます。
ここで注意すべきことは、下記です。

①電流が流れる必要が有るので、金属板に隙間が有るとシールド効果を損なう。

②低周波数以下の磁界は電磁シールドでは遮断できない。この場合は磁気シールドが有効。

③磁界は回り込むので金属板シールドケース等で囲う事が多い。

④原理的には接地は必要ないが、通常GNDに接続する。 *静電誘導と違う点

(3)電波

ノイズを発生する回路【送り側a】の電流の変化により電磁波が発生し、その物理的な回路で構成されたアンテナからノイズが電波 = 電磁波となって送信される現象です。
電波とは、3THz以下の電磁波を指します。
下図で説明いたします。

コンデンサに交流を加えると変化する電界が生まれます。
また、電線に交流を流すと周辺に変化する磁界が生まれます。
ノイズを発生する回路のケースなどで、コンデンサの電極を開いた形になると、電波を飛ばすアンテナの機能が生まれます。
ノイズを受ける側は、ラジオのように、同調したものがノイズとなります。

電波になったノイズは放射されて空間を飛び、他のカイロでノイズとして受信されて干渉されることになります。
一般的に、近距離では、電界・磁界によるノイズの誘導、遠距離では、電波によるノイズの誘導が主流になります。

ノイズ周波数電波の影響になる距離の目安
10MHz5m以上
100MHz50cm以上
1Ghz5cm以上

ここで表されている内容から、ノイズの影響が大きくなる要因と、その対策を整理します。

<影響が大きくなる要因><対策と備考>
①電波の放射は、アンテナの長さに依存・電子機器の配線を短く。
  但し、共振周波数は残る
②ループ面積に依存(ループアンテナ) ・配線間隔を狭く配線をツイストする。  但し、共振周波数は残る
③ダイポールアンテナも角度に依存・配線をたたむ 。
  但し、共振周波数は残る
④共振周波数が残る場合(共振周波数で同期増幅してノイズ発生)・ローパスフィルター     
 但し、共振状態の変化に注意
・EMI除去フィルタ、フェライトビーズ等    但し、信号は残す
⑤通常ノイズは空間伝導される ・電磁シールド(金属板で覆う)
⑥シールド出来ない部分を配線が出入り⇒配線がモノポールアンテナ 
⇒配線とシールドケースでダイポールアンテナ
・突出た配線を短く
・シールドを出入りする配線にEMI除去フィルタ
・シールドケースをアースに接続 
⇒大きなアンテナになる可能性有り

4.電気自動車の電磁波のまとめ

電気自動車内で影響の大きい空間伝導の3つの要素について原理を説明し対策についても考え方を説明してきました。
ご理解いただけましてでしょうか。
技術的に少し難しい内容になっていますが、ここで書いた内容を理解してノイズ対策をおこなえば期待する効果が必ずや得られると思います。
次回は、もっと踏み込んだ電気自動車における具体的なノイズ対策について説明する予定です。ご期待ください。

少しでも実務の参考になればと説明してきました。皆様の業務に活用していってくださることを切に望みます。

*最後まで読んでいただきありがとうございます。
舌足らずで説明不足の所はお許しください。
真面目に記載していますが、改善項目・修正項目などありましたらご指摘ください。

* 技術コンサルティングをご希望の場合は下記を参照ください。
【 電気自動車で発生する電磁波ノイズ対策のコンサルティング依頼ページ 】
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