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2020/9/16 (更新日:2022/2/13)

電気自動車の電磁波・ノイズの車内での実際の対策【インバータのシールドなど】

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電気自動車が出す電磁波は車や人体に影響はないのでしょうか?どのように対策すれば良いのでしょうか?

動作不良や健康障害にならない様に、電磁波の放出量を測定する国際的な評価基準が設けられています。
自動車会社は、適合した部品で組み立てる様に義務付けられているので安心です。
ここでは、実際に苦労しておこなった対策を具体的に説明いたします。

関連記事も参照ください。
1.電気自動車の電磁波・ノイズで事故や健康被害を起さない為に、電磁波が発生する原理を理解してから対策を考えます
2.電気自動車の電磁波ノイズが制御信号に及ぼす影響を抑える対策【コモンモードとノーマルモード】

電気自動車やハイブリッド車の開発で、電磁波ノイズによる電気部品の誤動作に悩まされ対策を必死で検討した経験があります。

電気自動車における「実際の対策例」を理解できれば、今起きている電磁波の問題を解決する方策を具体的に考える事が出来るようになります。

電気自動車の電磁波・ノイズの車内での実際の対策【インバータのシールドなど】

by rauschenberger pixabay

1.電気自動車の電磁波をシールドで対策する技術

電気自動車で電磁波を発生する部品は、電池、インバータ、モーターが主なものです。
電池は本体は電源として一定の電圧を保つので電磁波を発生することは少ないです。
またモーターも全体を金属のケースで覆うのが一般的なので電磁波を外部に放射することが少ないと考えられます。
電磁波の対策が頻繁に必要になるのがインバータです。
そういうわけで、ここでは、インバータの電磁波の対策を説明いたします。

(1)電気自動車の電磁波対策としてのシールドの実際

電磁波を発生する電気部品を金属で囲い電磁波を遮断するためにシールドが施されます。
電子・電気機器全体をシールド材で覆い、全周を隙間なく完全に密閉するのが理想とされています。

実際は! シールドに隙間があるとどうなる?

シールドで全周を囲う事が出来ず、開口部があったり、シールドから配線が突き出しシールドが破れると、電磁波が漏れたり、シールドケース自体がアンテナになり、電波が放射されることがあります。

電磁波を放射するアンテナとは、
①ケーブル
②シールドに密に接していない(金属開口部が大きい構造の大きな金属)
③スリットがある金属
④金属同士のつなぎ目で隙が生じた部分(スリットが構成される)
⑤コネクタの金属フレーム

例えば、考えられる状態は?

①開口部から放射されたノイズとシールドケースが静電結合すると、ケースに電流が流れ、シールドケース全体がアンテナになってノイズを放射します。

②外側に出た配線とシールドケースで静電結合すると、同様にシールドケース全体からノイズを放射します。

①の対策は、    
・開口を極力小さくすると良いです。
・開口部から電磁波ノイズ源を遠ざけるのが良いです。
・ノイズ自体を減らすと効果があります。
(ノイズ自体を減らす方策の参考項目を下記します:
  ノイズフィルとの入力ラインと出力ラインを確実に分離する。
  電源はノイズフィルター出力からとる。
  ノイズフィルターのアース線は太くする。)

②の対策は、
・ノイズフィルターを装着するのが良いです。
・配線を短くすると良いです。

(2)電気自動車でインバータを設計する時の電磁波対策の注意事項

1.シールド効果を出すには、シールド面に電流が流れやすいする事が重要です。
①シールドケースの接続部分を導電ガスケットなどでしっかり接続してください。
②導電性ねじで点で接触する時は、間隔を短くしてください。(間隔は波長の1/20程度と言われています。)
③スリットが有ると、スロット長λの1/2λ波長の周波数で電波が飛び易いです。
2.低周波数ではシールド効果が低下するので鉄材を使用してください。
(目安は、Cu,Alの効果;1MHz以上、Feの効果;10kHz以上)
3.低周波でのシールド効果が少ない場合は磁性体でシールドしてみてください。           …含むケイ素鋼,フェライトetc

(3)電磁波対策としてシールドが効果ある理由と設計する時の注意事項

シールドの効果を作り出す3つの要素

①反射損;電磁波が表面で反射される損失
>(材料の固有インピーダンスマッチングにより反射を起す為)
②減衰損;電磁波がシールド材内部で減衰する損失      
>表皮効果の性質で減衰する。(材料が厚い程、周波数が程、減衰が大きくなります。)
>表皮効果(表皮の一定深さまで侵入すると電磁波が0.37倍に減衰します。)
③多重反射効果;電磁波が表面と裏面で多重反射する効果

シールド効果を大きくするには、シールド材の特性を考慮し下記パラメータを参考に設計してください。

・シールド材を厚くする。(理由:減衰損が大きくなります。)
・導電率を大きくする。(理由:減衰損、反射損が大きくなります。)
・透磁率を大きくする。(理由:減衰損が大きくなります。)

2.電気自動車の電磁波を抑える高電圧系シールド線の対策技術

電気自動車に使われている大電流を流すパワー線(=パワーケーブル)には一般にシールドされている電線を使います。
そのシールドされている電線の処理方法が電磁波ノイズには重要なので説明いたします。

電磁波を封じ込めるには完全密閉が良いとご説明しました。
高電圧系シールド線のパワー線を覆っているシールド部分はケースに直接接続してください。
パワー線のシールド部分とケースの間は極力隙が無く電磁波が漏れないように処理することが必要です。可能ならば全周で接触しているのが最良です。
万が一、接触をしていない状況になると、電磁波を抑えるのとは逆にアンテナの役割をして電磁波ノイズを発信する場合もありますので、是非細心の注意をして処理してください。
また、通常はケースをシャシーGNDに接続します。
(但し、車両の色々なアース位置などの状況に応じて、シャシーGNDに落とさない方がノイズを発生しない場合があるので、これに関してはその車両に応じて判断してください。)
また、信号系のシールド線もできるだけ同様の処理にしてください。

3.電気自動車の電磁波の車内での具体的な対策技術まとめ

電気自動車での電磁波ノイズの具体的な対策内容をご説明いたしました。
電磁波は目に見えない為対策を施すのが大変難しい技術の一つです。
ここで説明した内容を実車で試して効果を実感し、自分の技術にして頂けたら幸いです。

少しでも実務の参考になればと説明してきました。皆様の業務に活用していってくださることを切に望みます。

*最後まで読んでいただきありがとうございます。舌足らずで説明不足の所はお許しください。
真面目に記載していますが、改善項目・修正項目などありましたらご指摘ください。

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