2020/9/29 (更新日:2022/2/13)
電気自動車の電磁波ノイズが制御信号に及ぼす影響を抑える対策【コモンモードとノーマルモード】
電気自動車で電磁波が制御信号に及ぼす電磁波障害をどのように対策すれば良いのでしょうか?
動作不良にならない様に、制御信号系の対策について考え方から対策が分かるように実際の対策を具体的に説明いたします。
電気自動車やハイブリッド車の開発で、電磁波ノイズによる電気部品の誤動作に悩まされ対策を必死で検討した経験があります。
この記事が理解できれば、今起きている電磁波の問題を解決する方策を具体的に考える事が出来るようになります。
関連記事も参照ください。
1.電気自動車の電磁波・ノイズの車内での実際の対策【インバータのシールドなど】、
2.電気自動車の電磁波・ノイズで事故や健康被害を起さない為に、電磁波が発生する原理を理解してから対策を考えます
電気自動車の電磁波ノイズが制御信号に及ぼす影響を抑える対策【コモンモードとノーマルモード】
1.電気自動車の電磁波ノイズが制御信号に影響を及ぼすモード
ノイズの状況を分類すると、二つのモードが考えられます。始めに違いを説明します。
(1)電気自動車の電磁波ノイズ:ノーマルモードとは
信号線にノイズが印可するモード。
【二本の信号線上のノイズが逆方向に流れる=信号線間に電圧が発生】
ノイズ電流が余分に流れて信号のふるまいをします。ノイズ量に応じて余分に電流が流れる為(信号線の電流 = 正規の電流量 + ノイズの電流量)、負荷の両端にノイズにより余分に電圧が発生(負荷×信号線の電流)します。
(2)電気自動車の電磁波ノイズ:コモンモードとは
外部から回路全体にノイズが印可するモード。
【二本の信号線上のノイズが同じ方向に流れる=信号線管電圧は零】
回路全体とアースの間を浮遊静電容量を通してノイズの電流が流れる為、負荷の両端は同電位になり、電圧は発生しません。信号には悪影響がありません。
2.電気自動車の電磁波の放射
ちょっと【右ねじの法則】を復習
直線状の電流が流れると、この電流を取り巻くように、円形の磁界が発生します。
このとき、電流の流れる方向に右ねじを進めると、ねじの回転する方向が磁界の方向を示しています。
(1)ノーマルモードのノイズの放射
ノイズ電流により生じる外部の磁界は打消し合う為、放射ノイズは少ない【GOOD】
図中[A]:線間では磁界は強め合いノイズ大の為、線間の部品へ影響を減らす為、対策は下記です。
⇒ツイストペア(=面積減らす)
⇒並行配線
⇒シールド線
図中[B]:回路ではループアンテナに成り電波放射をし易い為、対策は下記です。
⇒電流ループの面積を減らす
⇒基板なら多層基板等
【参考】代表的なフィルタの基本構成
ノーマルモード用フィルタ
*必要な信号は残しノイズを減らす適合
①インピーダンス素子;電流を減らす(チョークコイル、フェライトビーズ;高周波数カット)
②バイパスコンデンサ;ノイズがバイパスされてノイズ源に帰る
③インピーダンス素子(不平衡回路ではしない)
(2)コモンモードノイズの放射
電流による外部の磁界は強め合う為、放射ノイズは大きい【BAD】
図中[A]:線間では磁界は打消し合いノイズ少
図中[B]:高周波ノイズの場合、インピーダンスが下がり、ノイズ電流が増え、放射が大きくなる。
⇒不要な成分なので、ノイズフィルタで強力に除去
*信号線はシールド線にすることで影響減
【参考】代表的なフィルタの基本構成
コモンモード用フィルタ
*ノイズを減らす事だけ考える
①バイパスコンデンサ;ノイズがバイパスされてノイズ源に帰る
②インピーダンス素子(コモンモードチョークコイル);電流の変化を減らす
3.電気自動車の電磁波のコモンモードノイズ
(1)コモンモードノイズ(放射)の中身
コモンモードノイズ(放射)の原因は?
差動で送る信号 (例:高速デジタル伝送) に回路部分で印可されるコモンモードノイズはどの様に生じるのでしょうか?
内部信号から生じる4つのコモンモード成分ノイズが考えられます。
耐ノイズ性を向上する為にツイストペアの信号には反転した信号1と信号2を送信する場合を例に説明します。
内部信号から生じるコモンモード成分ノイズ
図中(a):信号1と信号2の立ち上がりのタイミングがずれ、信号に遅れが生じる場合
図中(b):信号1と信号2の立ち上がりの傾きがずれ、立ち上がりの間に信号の値に差が生じる場合
図中(c):信号1と信号2の振幅が異なり、信号の絶対値に差が生じる場合
図中(d):信号1と信号2の両方にノイズが印可されて、コモンモードでノイズが残る場合
差動信号のノイズを抑える方策
上で述べたコモンモード電流バランスの崩れを抑制するには、下の対策をおこないます。
図中(a)(b)(c):の対策は、①チョークコイル(信号を合せようとする)
図中(d):の対策は、①チョークコイル、②シールドケーブル、③IC電源EMI除去
ちょっと【チョーク回路】を復習
コモンモード電流による磁束は足しあわされインダクタとして働く
ディファレンシャル電流による磁束は打消されインダクタとして働かない
内部で発生するコモンモードノイズ対策(放射)
電流バランスの崩れを抑制する以外の対策も考えられます。
放射するノイズをケースに閉じ込める方法です。
ケース自体をGNDに使用する場合、内部で発生したコモンモードノイズはケースを経由する事でシールドケーブル内で電流の総和がゼロになります。
コモンモードノイズはシールド出来ている為、ノイズの放射はありません。
(2)コモンモードノイズ(受信)
コモンモードノイズが印可した信号を受信する場合を考えましょう。
ノイズが有る場所では重要な信号は差動で送る(受信)
例:高速デジタル伝送
1.重要な信号は通常差動(線間電圧)で受ける設計にする。
> 外部からのコモンモードノイズ(回路全体に印加)の影響は受け難い。
> アース vs 電源系ノイズの影響が受け難い。
【=両信号に同じノイズが印加する場合】
2.プラス側とマイナス側に対称の2つの信号を送る。
> 電流成分はノーマルモードのみでノイズの影響は少ない。
【=出力信号レベルが大きい】
差動信号を受信する場合のコモンモードノイズ対策(受信)
理想状態
誘導されたコモンモードノイズは、インピーダンスが同じで(理想的な)差動なら支障なく動作。
片側がアースの場合、
不平衡になりコモンモードノイズがノーマルモードノイズになる
⇒重要な信号は差動で受ける。無理なら、ノイズフィルタ、チョークコイル、トランス等で対策
各線とアース間に存在する浮遊静電容量等のインピーダンスZ1,Z2に差が発生する場合、
アンバランスで線間にノイズ電圧発生
⇒インピーダンスの揃った終端抵抗を付ける
確実なシールド対策(受信)
信号の処理方法
これ以降は、繰り返しになる部分があるので、十分内容を理解できている場合は読み進まなくても結構です。細かい内容で伝えたいことを記します。
対策1>シールド線のシールド外皮全周をシールドケースに接続してシールドする。
対策2>シールドケースをアースする場合は、電位差が生じない様に車両にアースする。
…一点アースが原則(特に低周波数百kHz?以下に影響)
コモンモードノイズ対策の難しさは?
外部からのノイズはアースを通ってノイズ源に戻るが、双方でシャーシGNDに接続されると、GND間の電圧降下により低周波でのノイズが増える恐れがあります。
対策3>シールドを機能させる為GNDに接続するが、
課題;シールド用GNDにも電位差が生じ浮遊容量によりノイズが重畳し、シールドにノイズが重畳し、
アンテナになり、低周波でのノイズが増える恐れがある。
対策;電位の安定したGNDが必要
注意する項目
理想のシールドでは、A点B点が同電位でノイズが吸収される。
1点アースが良い!
シールドケーブルの接続方法
制御系信号線のシールドはケースと接続。
(制御信号のアースは、バッテリGNDへ直接接続。
困難なら一般的な信号のアースは電位差を考慮しながらシャーシーGNDへ接続。
必要に応じケースをシャーシーGNDへ接続を検討する。)
①シールド出来ない部分のシールド効果減少(極力シールドを確保)
②シールド部を束ねてGNDに接続。インピーダンス生じシールド効果減少
*シールド部分の密度が高い方が効果が大きい
垂直方向の亀裂
シールド部分の亀裂による電気的断絶
➡シールド効果大幅低下
水平方向の亀裂
シールド部分の亀裂による電気ノイズ漏洩
➡シールド効果減少微少
4.電気自動車の電磁波ノイズが制御信号に及ぼす影響を抑える対策まとめ
電気自動車が出す電磁波が制御系に及ぼす影響を抑える対策を、考え方から分かるように実際の対策を具体的に説明いたしました。
ここで説明した内容を実車で試して効果を実感し、自分の技術にして頂けたら幸いです。
少しでも実務の参考になればと説明してきました。皆様の業務に活用していってくださることを切に望みます。
*最後まで読んでいただきありがとうございます。舌足らずで説明不足の所はお許しください。
真面目に記載していますが、改善項目・修正項目などありましたらご指摘ください。
* 技術コンサルティングをご希望の場合は下記を参照ください。
【 電気自動車で発生する電磁波ノイズ対策のコンサルティング依頼ページ 】
海外にも対応します
Copyright – Seiji Nakamura, 2020 All Rights Reserved.